断言します。
金属加工は簡単です。特に加工のための機械類がある現代では。
そんなに仰々しく溶かしたり削ったりの加工をするわけではありません。もちろんそれらも時間をかければ可能ですが、もっと簡単な手法もあるのです。
今回はステンレス製のドッグタグを加工する方法を紹介します。
レーザー彫刻による金属への刻印
金属に強力な光を当てて表面を削る「エングレーブ」、あるいは特殊な錆(酸化被膜)を発生させて色を付ける「マーキング」と呼ばれる手法があります。これらを活用すると、たとえば名刺入れやオイルライターといった物に文字や絵を刻印することが可能になります。
素材はもちろん金属に限らず、塩素を含まないプラスチック、木材、革でも加工が可能ですが、一番面白いのは金属への適用です。なぜなら、素材が焦げることがなく、前述の酸化被膜を発生させることにより多種多様な見た目に変化するから。調整を極めれば美しい青色やピンク色の構造色を見せてくれます。
さっそく始めていきましょう。
先に用意するのは無刻印のドッグタグ(あるいはアクセサリーにしたい金属片など)です。
今回使用した機材はMACTRON社製の30Wファイバーレーザー加工機。別処理無しで金属への彫刻が可能であり、相性によっては鏡面に磨き上げられた部分にも加工できます。

レーザー加工機にはこれ以外にも、CO2レーザー加工機など、レーザーの出力方式が違う加工機が多数あり、レーザーの質も変わってきます。金属加工に適しているのはファイバーレーザー、UV(紫外線)レーザーですが、CO2レーザーの場合は金属マーキング剤という薬液を塗る必要があります。クリック/タップで展開:これ以外の加工機と別処理について
専門的には「ドロス付着防止剤」あるいは「反射防止剤」と呼ばれるこれらの液を塗布することで、金属にレーザー光を反射させずに加工することができるのです。
ただし、これらを使用すると(基本的には)金属の表面に酸化被膜を作る形でしか加工ができません。つまり、白くマットな彫刻はできず、表面に黒い印刷をしたような見た目になります。
数少ない例外として、アルミニウムに行う表面処理「アルマイト」を除去する形での彫刻であれば可能です。
加工機に付属のソフトにより使用できるデータ、操作手順などが変わってきます。
ほとんどのソフトでは文字はデータとして読み込む必要がなく、フォントや大きさと位置を指定すれば加工できます。画像を使う場合や複雑な図形を使用したい場合はデータを読み込みます。
機械が扱う「画像」と「線」には種類があります。 一方、画像はもう少し複雑です。「色のついた点の並びを記録する」ラスタ形式と「描いた線の向きや色の位置関係を記録する」ベクター形式があり、それぞれ更にデータ容量を軽くする処理をしている/していない等の規格で細分化しています。クリック/タップで展開:画像や線の扱いについて
たとえば「線」の場合、「長さを指定した線」と「円や円の一部」で構成された「ポリライン」と、「関数で表した滑らかな曲線」で構成された「スプライン曲線/ベジェ曲線」に分かれます。CAMによってはスプライン曲線やベジェ曲線が扱えないため加工ができませんが、これを線分や円弧で近似(似たような形で表すこと)することにより扱うことができます。
どちらにせよ、CAM側で読み込めないデータは撥ねてくれることがほとんどです。別のソフトウェアを使うなどして形式を変更し、読みこみましょう。
読み込めたらプレビューです。
ソフト上にデータがあっても、実際それが加工領域のどこにあるか分かりません。レーザーが当たる場所に素材を置き、プレビューを行うことで加工データの形に光を当ててどこを削るか確認します。
大幅にずれていたら素材を近づけ、微調整はソフト側で調整していきます。また、同時にレーザーのピントを合わせる作業を行います。これは加工機によって変わりますが、今回は鏡のついたヘッド自体の高さを変えることで調整しました。大型CO2レーザー加工機の場合は素材を置く台の方の高さを調整しますよ。
素材が汚れていないこと、安全眼鏡をかけたことを確認して加工を開始します(汚れていてもレーザーが焼き切ってしまいますが、煤が付きます)。粉塵を回収する設備がある場合は使用しましょう。
周囲に人がいる場合は加工を始める旨伝えます。レーザー光は反射光でも目に悪影響があります。
あくまで表面の0.2mm程度、文字に合わせて削るにとどまるため、加工時間も一瞬です。切断や画像からの加工となるともう少し時間がかかります。
最初の数枚はレーザーの威力(パワー)と焦点の移動速度(スピード)を決定するためにテストデータを使用し、実際に刻印したいものはそこから算出されたパワー/スピードで削り出します。

刻印したタグは、チェーンやストラップを付ければ完成です。もちろんそのまま財布や筆箱に入れてもいいでしょう。
余談……レーザー加工とは何に使われているか?
レーザー加工は、見た目こそハイテクなものの内実は単純な彫刻・切断加工です。極細の光を使用するため、切断部の幅が0.1mm未満にまで設定可能という利点があり、これにより非常に高精度な加工が可能になります。
ただし、レーザー光には焦点が存在します。レンズの距離が3~5mm程度変わっただけでも切削条件が変わってしまうため、緻密な調整が必須であり、さらに言えば分厚い素材を立体的に加工するのも難しいといったところで、薄板の加工や平面への彫刻に向いている方式と言えるでしょう。
また、加工対象への接触が必要ないことから、品物の最終仕上げとして使用することも多くあります。鏡面に磨き上げた金属に文字を入れたい、となったとき、通常の工作機械であれば爪で掴んだりネジで留める必要があるところ、レーザー加工機ならば置いて焦点を合わせるだけで済みますし、比較的柔らかい木材や革にも安定して焼き印を入れることができます。
少し変わった例では、前述の酸化被膜刻印を医療機器に適用するものがあります。酸化被膜が非常に薄く、引っかかりがないため拭き掃除が楽という特性がありますし、インク印刷ではないので消毒薬で消えてしまうこともありません。もちろん強く擦ったり磨けば消えてしまうのですが、そう簡単には落ちない印刷方式として活用されています。
そのほかには、低出力レーザーを使用することにより金属を侵食せずに錆や汚れを焼き切るという使い方があります。こちらは加工機ではなくクリーナーとして販売されており、工事現場や工場などで使われています。